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MOSA Developer News[MOSADeN=モサ伝]第302号

2008-06-24 

目次

  • WWDC初参加レポート
  • 「「Wonderful Server Life」    第72回   田畑 英和
  • 小池邦人の『WWDC2008を思う』
  • ターミナルの向こうから      第27回  海上 忍 

WWDC初参加レポート

今回、WWDCの感想投稿について依頼を受け、WWDCへ行かれたことの無い方が、今後参加される際の参考になればと思い、投稿させていただきました。

私は、今回初めてWWDCに参加してきました。

サンフランシスコの天候は、日中は日差しが強くはありますがカラッとしていて、また涼しい風が時折吹くため、梅雨で蒸し暑い日本に帰るのが億劫になるほどとても過ごしやすい天候で、快適にすごすことができました。逆に朝・夜は結構冷え込んで、WWDC初日の長い列にならぶときや、木曜日の夜にあったWWDC Bashに半袖で参加してしまったのをとても後悔しています。今後参加されるかたには、私の失敗を活かして、上に羽織る長袖を何着か持っていくことをおすすめします。

さて、WWDC初日のキーノートですが、内容は様々なメディアで紹介されていますので割愛させていただきますが、皆さんご存知の通りiPhone一色でした。とても残念だったのが、生で見ることを期待していた”One More Thing”が今回なかったことです。
「初参加の今年に限ってなくさなくてもいいでは無いか」と、自己中な発言ではありますが文句を言いたくなります。やはり、Snow Leopardの情報が漏れていたせいで、ネタがなくなってしまったのでしょうか・・・それでも、「新しいiPhoneのリリースに合わせて、新しいiPod Touchもリリースします」ぐらいの発表がされて欲しかったと思います。

iPhoneですが、ご周知の通り7月11日に日本で発売されます。皆さんはどうされるのでしょうか? まだソフトバンクより月額料金の発表がなされていませんが、料金体系によっては一部のユーザ層にしか受け入れられないのではないかとの懸念があります。Macアプリの開発者としては、月額料金を安くしていただいて、iPhoneが爆発的に売れることにより、Macというプラットフォームにもっと注目が集まることを期待しています。そこはソフトバンクの方の営業努力をできる限りお願いしたいと思います。

話がそれてしまいましたが感想に戻ります。私にとってWWDCが初参加であり、またアメリカへの旅行も初めての経験でしたので、不安点が多々ありました。

まず時差について。
日本とサンフランシスコでは、6月のサマータイムの場合、時差が16時間あります。今回、近畿ツーリストのパッケージツアーに参加しまして、成田16時発-サンフランシスコ朝9時着の日程となっていました。到着日はWWDC開催日前日ではありましたが、日本での生活サイクルのまま移動してしまうと、かなりつらい目を見ることはあきらかでした。

これを解決する方法として、私は出発前日に睡眠時間を普段の三分の一程度に抑えてみました。これが功を奏し、長いフライトの間に寝ることができたため、調子のいい状態で到着日の朝を迎えることができ、到着後フィッシャーマンズワーフを観光するなど、活発に活動することができました。出発前日に寝ないというのはさすがにつらいと思いますので、睡眠時間を少なくする方法はお勧めです。

次に、一番大きな不安点であった、英語について。

日本から参加される方で、不安に思われる方は多いと思います。ですが、パッケージツアーに参加することで、他の参加者の方や添乗員の方がいらっしゃいましたので、移動に関しては特に心配する必要がありませんでした。また、WWDCのセッションについても、スライドで何について話しているかは表示されますし、コードが表示される場合もありますので、全く内容がわからないということはありませんでした。

一点だけ、自身の世界観や見聞を広げるために、海外の参加者の方とコミュニケーションを取りたかったのですが、私の英語レベルでは全くダメだったという問題がありました。
海外の方から話かけられることが何回かありましたが、そのときにコミュニケーションをとろうと稚拙な英語で話そうとはするのですが、海外の方は面倒見がいいのかおせっかいなのか、別の海外の方が横から口をだしてきますので、結局会話を持つことができなかったことをとても残念に思っています。次回、WWDCに参加するまでに、英語レベルの向上は必須の課題だとわかりました・・・

さて、ここまで不安点ばかり紹介してきたので、ここからはWWDCに参加するメリットについてご紹介します。

まず、Mac開発者として、最新の開発情報を手に入れることができること。WWDCの内容はキーノート以外は非公開であるため、参加されていない方に先んじて、最新の開発情報を自身が開発しているアプリケーションに対して反映することができます。
今回で言うとSnow LeopardのデベロッパプレビューがWWDC参加者に渡されましたので、Snow Leopard発売と同時に新機能を搭載したアプリをリリースできたり、いままで作成してきたアプリをSnow Leopardに対応させることも非参加者より先に行なえます(私としてはLeopard対応にとても苦労をさせられたので、後者を早めにできることが、とてもうれしく感じます)。

また、開発情報の公開が許可される前までに内容をまとめておき、公開が許可された時点でプログラム本の出版を行なうといったことも可能なのではないでしょうか。

次に、日本のMac開発者の方とコミュニケーションがとりやすいこと。

普段日本で開発している場合にはあまりMac開発者の方に会う機会がありませんが、WWDCでは開催日前日にはApple Japan主催のレセプションがありましたし、開催期間の中頃にはMOSAのパーティがありました。またWWDC会場内でも休憩時間に話をすることもできます。私は、地方在住であり、Mac開発者としてもまだ経験が浅いため、他の日本人参加者に面識のある方はいなかったのですが、上記のレセプションやパーティを通じて、色々な方と会話をすることができました。本投稿についてもモサ伝編集長の高橋様とお話ができたことによりこの機会をいただくことができました。
またApple Japanの方も参加されていますので、その方からいろいろ情報を聞くこともできます。
英語があまり得意でない私にとって、まわりが英語ばかりで多少疲れを覚えたのですが、日本語で会話できる場所ではとても安らぐことができました。今後WWDCに参加される方にも、日本人参加者があつまるイベントにはぜひ参加することをおすすめします。

MOSAのパーティについてですが、今年はかなり多くの方が参加されたらしく会場はギュウギュウでしたが、私にとっては近くにいらっしゃる方に話しかけやすかったため、逆によかった印象を持っています。MOSAの方々にあの場を提供してくださったことをお礼申し上げます。

終わりに、WWDCに参加して自身の見聞の狭さなど足りないことが色々見えてきました。これからの目標を立てることもできましたし、総じて今回のWWDCの参加は大成功と言えます。

稚拙な文章で申し訳ないですが、お役にたてましたでしょうか?それでは、これをもってWWDCの感想とさせていただきます。

◇モサ伝編集部より◇
WWDC初参加のSさんにレポートをお願いしました。

「Wonderful Server Life」  第72回  田畑 英和

◇WWDC – Snow Leopard
 E-ticketが売り切れこれまででもっとも多くの開発者が参加したWWDCも終わりました。NDAの適用外となっている基調講演はいつものようにストリーミングでも公開されていますので、WWDCに参加していない方でも、すでに内容をご覧になったかと思います。前評判どおりiPhoneに関する発表がほとんどで、基調講演では、次期Mac OS XとなるSnow Leopardに関してはその名前が発表された程度でした。

・WWDC 2008 Keynote
http://events.apple.com.edgesuite.net/0806wdt546x/event/index.html

 それでもアップルのWebサイトをみると、すでに概要だけは公開されています。特にクライアント版のSnow Leopardでは、これまでのような大量の新機能の追加よりはOSの基盤部分の改良を行い、今後の拡張に備える方針になっています。
 サーバ版のSnow LeopardではLeopard Serverから新たに加わったiCal ServerやPodcast Producerがそれぞれバージョンアップしたり、新たにAddress Book Serverが加わります。またOSの基盤ではクライアント版と同様にマルチコアへのさらなる最適化や、64bitカーネル、GPUを使った汎用計算を行うOpenCLの採用が予定されています。またサーバではSunが開発したZFSへの対応も注目すべきところでしょう。
 リリースは約1年後となっていますので、来年のWWDCの時期にはリリースされるかもしれません。TigerからLeopardへのアップデートには時間がかかりましたが、今後OSのアップデートはサイクルが早まっていく可能性があります。

・Mac OS X Server Snow Leopard
http://www.apple.com/server/macosx/snowleopard/

◇10.5.3アップデート
 WWDC前後にいくつかサーバ関連のアップデートがリリースされましたので、こちらを紹介しておきましょう。まずLeopard Serverのアップデートがリリースされバージョンが10.5.3になりました。10.5.2からのアップデートと10.5.0以降で使用できるコンボアップデートがリリースされています。

 今回のアップデートは容量も大きく、広範囲にわたって様々な修正が行われています。これまでLeopard Serverを運用していてなにか問題があった場合は今回のアップデートで修正が行われていないかまずは確認をしてみましょう。特にAFPサービスが正常に動作しないことがこれまで問題になっていましたが、この問題に関する修正も行われています。実際にはDirectoryServiceプロセスに問題があり、AFPサービスがその影響を受けていました。
 10.5.3のアップデートでは不具合の修正だけではなく機能追加も行われています。第68回の連載で他のディレクトリサーバ上のユーザを読み込んで作成するオーギュメント・ユーザ・レコードを紹介しましたが、これまではサーバをワークグループ構成にした場合でしかGUI上では設定ができませんでした。サー
バを10.5.3にアップデートすると「ワークグループマネージャ」の「ファイル」メニューに「新規オーギュメント・ユーザ・レコード」メニューが追加され、ここからほかのディレクトリサーバ上のユーザを読み込んでオーギュメント・ユーザ・レコードが作成できるようになりました。この方法はサーバが詳細構成の場合でも利用することができます。

 また今回のアップデートではサーバの管理ツールもアップデートしました。サーバをアップデートすればサーバ上の管理ツールも同時にアップデートされます。別マシンからサーバ管理ツールを使ってリモート管理している場合には、事前に別マシン上のサーバ管理ツールもアップデートしておきましょう。サーバ管理ツール単体のアップデートもリリースされています。

・Mac OS X 10.5.3 Serverアップデートについて
http://support.apple.com/kb/HT1142

◇Xserve EFI Firmwareアップデート
 XserveのEFI Firmwareアップデートもリリースされています。EFI Firmwareですので対象となるのはIntel CPUを搭載したXserveになります。アップデートのためのシステム条件は10.5.2以降となっています。

・Xserve EFI Firmware Update 1.1
http://www.apple.com/jp/ftp-info/reference/xserveefifirmwareupdate11.html

◇Xsan 2.1
 XsanのアップデートVer 2.1がリリースされ、いくつかの問題が修正されています。Xsan 2.1のアップデートは、ファイルシステムのアップデートと管理ツールのアップデートが個別に用意されており、アンインストーラも別途用意されています。
 Xsanは動作条件が厳しく、システムの停止や起動にもルールがありますのであらかじめ動作条件やアップデートの手順を十分に確認してから計画的にアップデートを行う必要があります。

・Xsan Filesystem Update 2.1
http://www.apple.com/jp/ftp-info/reference/xsanfilesystemupdate21.html
・Xsan 2.1 Admin Update
http://www.apple.com/jp/ftp-info/reference/xsan21adminupdate.html
・Xsan 2.1 Uninstaller
http://www.apple.com/jp/ftp-info/reference/xsan21uninstaller.html

 さて、今回は予定を変更してSnow Leopardおよび最近リリースされたアップデートについて解説しました。次回はからは「サーバ管理」を使ったLeopard Serverの各種サービスの管理について解説する予定です。
次回へつづく                             

小池邦人の『WWDC 2008に思う』(2008/06/20)

6月9日(日本では6月10日の深夜)Steve Jobs CEOによる基調講演(キーノート)によりWWDC 2008が開幕しました。今年はキーノート(午前10時スタート)の待ち行列に午前6時から並びましたが(昨年より30分早く)、途中で謎のTシャツが投げ込まれたり、MacTechマガジンが配られたりと大変賑やかで、あまり退屈することもなく、昨年より待ち時間が短く感じられました。並んでいる参加者の多くは、既にiPhoneを所有しており、通話、音楽、ウェブ回覧、記念撮影と暇つぶしで忙しそうでしたが、我々日本人はiPod touchしか使うことができず、少々悔しい思いをしました。ですから、来年は絶対にiPhoneネイティブのネット対戦ゲーム(4人麻雀希望)で暇をつぶしてやろうと心に誓ったわけです(笑)。

ところで、毎年WWDCではセッションスケジュールを記した小冊子が配布されるのですが、今回は無し! 環境に配慮したわけでもないでしょうが、Apple社の参加者サイトの最新スケジュールを参照する方式に変更されました。このサイト、ちゃんとiPhoneやiPod touch用も用意されており(良くできている)、参加者は会期中このサイトを見ながら会場を移動していました。筆者は、いつもはあまり外出しないので、常時インターネット接続のモバイルデバイスを試す機会がなかったのですが、今回の会場におけるサイト回覧やメール利用で、この種のデバイスがこうした状況で本当に有用であることを痛感いたしました。まあ、参加者の多くは同時にMacBook Proなども持ち歩いていたので、全体的にはiPhoneなどを使っている人は少なかったとは思うのですが…。

さて、キーノートの会場に足を踏み入れて驚いたのは、その取材陣とテレビカメラの多さです。事前にiPhone 3G発表が確実視されていた事もありますが、WWDCがコンシューマ向けの展示会ではなく、MacやiPhone対象のデベロッパー会議であるという点を考えると異例のことです。そして会場は参加者で満杯! キーノート会場の収容人員は決まっていますので、余った人は強制的に
オーバーフロールーム(映像のみ放映)へ回されてしまいます。Jobsから本年度の参加者は5,200人という発表がありましたが、チケットが売り切れていなかったら、もう1,000人ぐらいは集まったかもしれません。MOSAへも、売り切れ後に「チケット何とかならないか?」という問い合わせが相次いだそうですが、それは流石に無理(問い合わせ先が違う)と言うものです(笑)。

ご存じのとおり、WWDCのセッション等で話された内容はNDA(秘密保持契約)扱いですので、それらの詳細を一般開示することはできません。ただしキーノートだけはNDAが適用されず、自身のコラムや記事等で自由に言及してもOKです。ですから、キーノートに関する情報や解説、そして各関係者の感想は、雑誌や関連ウェブサイトに氾濫しています。筆者としては「iPhone OS 2.0」「iPhone G3」「App Store」「Mobile Me」などについては、前々から聞いていた噂に近い内容でしたので、それほどの驚きはありませんでした。それより「Snow Leopard」に関しては、キーノート内で詳細を紹介してほしかったと思います。どう見ても時間切れのため午後からのセッション(キーノートの延長だった)に回された感が強く、結局、その内容の開示は不可となってしまいました(Apple社のウェブサイトに少し開示されている)。

Apple社と四半世紀の間付き合ってきた筆者が、今回のキーノートで最も感慨深く眺めたのは「三本足のスツール(背もたれのない一人用腰掛)」のスライドでした。このスツールの三本足ですが、Jobsいわく、Apple社を支える3本柱のMac、Music、iPhoneだそうです。Apple社は、iPod登場以前の20年近くをMacintoshという「一本柱」だけで生き抜いて来ました。それも製品シェア数パーセントのビジネス環境で、です。よく考えると(考えなくてもか…)ビジネスの世界において、これは奇跡的な事かもしれません。途中で、この一本柱を削りもう一本の柱を立てようとして(クローン容認とOSライセンシング)あやうく本体が倒れそうになりましたが(笑)その柱がついに3本になったことを直接Jobsから聞ける時代が訪れようとは、ただただ感激です。

ところで足が3本に増えたとは言え、スライドに映ったスツール、安心して座るのには少し不安定な感じが漂っていることにお気づきでしょうか(笑)。筆者が今回のWWDCに参加して感じたのは、「Apple社は、このスツールに新たな4本目の足を追加しようとしているのでは?」と言うことでした。そして、4本足をそれぞれ臍(ホゾ)で接ぎ(お互いに補強し)より丈夫で安心して座れるものを作ろうとしているように感じました。4本目の足が具体的に何なのかは、今のところは謎のままです。各足をハードウェアに例えるなら、Apple TVや噂になっているタブレット型Mac(iTouch?)なども候補かもしれません。
しかし、Apple TVはMusicにまとめて「メディア」と呼べそうですし、タブレット型MacはiPhoneも含めて「モバイル」へと格上げできそうです。

4本目の足は、Apple社が今のところまったく参入していない分野がターゲットとなる可能性が高いように感じます。今回のWWDCでは、それに対する幾つかのヒントが提示されていたのかもしれません。まず最大のキーワードは「ビジネス」と言う単語でしょうか? あちらこちらでプンプン臭っていましたね(笑)。iPhone OS 2.0は、Exchange対応を含めてビジネス分野のサポートが大きく強化されました。また、Snow LeopardでもExchangeがサポートされることが明言されています。「iPhone Developer Program」に参加している企業が、Fortune誌による500のトップ企業の中の35%をしめている点も強調され、Mobile Meに関しても、現在は「Exchange for the rest of us」だそうですが、状況によってはビジネス分野への展開や拡張もありそうな雰囲気です。

iPhoneが関わる分野についてはまだ始まったばかり、これからが勝負であり、おのずとビジネス分野への参入準備を整えることができます。しかし、Mac(パソコン)に関しては、すでに存在している「別勢力」を大きく浸食する必要があります。逆に言えば、それだけ奪取できる大きなシェア(チャンス)が残されているという事にもなります。筆者は、Apple社は、こうしたビジネス
分野へ進出するための「切り札」を持っていると考えています。それは「Mac OS Xのライセンシング」です。前にも書きましたが、この切り札は1本足の時に大失敗したビジネスモデルの再演となります。しかし現在、足は3本もあるわけでして(笑)1本に若干の悪影響が出たとしても、残りの2本でそれをカバーできる(逆に効果を得られる)だけの余裕もあるはずです。

この場合、ライセンシングはすべての分野に及ぶ必要はなく、コンシューマ分野については、Macintoshというブランドを維持すれば良いわけです。つまり、ターゲットをビジネス分野のみに絞るという作戦です。例えば、パソコンを生産をしていないSunやIBMと提携して、Mac OS Xを搭載したマシンをビジネス分野へ販売してもらうと言うのはどうでしょうか? CPUをインテル x86へ切り替えたMacに、もはやハードウェア的制約はありません(どこでも簡単に作れる)。また、こうした企業は、ハードウェア販売による利益ではなく、システムインテグレートやそのサービスを含めたソフトにより収益をあげています。ですから、その末端ツール(クライアント)として、システムの能力を正当に引き出せ、ユーザ側にとっても管理しやすい優秀なOSが確保できるのであれば、何の文句も無いでしょう。

Mac OS Xがライセンシングされれば、ひょっとするとDellやHPといたメーカも諸手を挙げて喜ぶかもしれません(笑)。Apple社にとっては、それが製品的には何ら面白みのない黒い箱の中で起動されようとも、Mac OS Xのシェア・アップが「4本足のエコシステム」の形成には重要なはずです。実際のところ、個人的にも「Mobile Me」や「App Store」のコンシューマ展開の方が面白
そうですし、ビジネス分野(何をそう呼ぶかが問題ですが…)で使われるiPhone用アプリにもあまり興味がありません。また、Jobs自身も「ビジネスマシン」などという製品分野には、ほとんど興味が無いでしょう(彼がビジネス回りの話をする時、いつもちょっと嫌そうな雰囲気が漂う)。しかし、そこから得た利益や情報、経験、知識が、より良いコンシューマ製品(Apple社らしい)の開発へと反映されるのなら、小さな労力で大きな効果を上げられる戦略だと思います。

筆者としては、Apple社がコンシューマの世界に新風を吹き込んでくれる画期的な製品を出し続けてくれるのが一番です。デベロッパーの一人として、そうした画期的な製品から刺激を得て、それを成長させるためにソフトウェア(アプリケーション)開発で貢献できれば、こんな楽しいことはありません。そのためには、新たな収益を求めてビジネス分野へ足を踏み込むことも必要だと考
えます。会社自体が健全経営で収益を上げ、優秀な人材を確保し、適切な研究開発費を捻出できなければ、決して良いものは作れません。正直言って、1本足を削っていた時代のWWDCには暗い雰囲気が漂っていました。毎年技術チームのエンジニア(社員)は交代し、提示される技術内容も貧弱で魅力無く、デモする彼らからは自信のカケラも感じられませんでした。今回、各セッションを
熱く堂々と仕切る若いエンジニア達を見ながら、そんな昔を思い出してしまいました。

来年のWWDCのキーノートでは、美しきスツールのために「4本目の足」の話が中心となることを期待したいと思います。
                                 以上

ターミナルの向こうから      第27回  海上 忍

〜 プレインテキストで文書作成(1)〜

・プレインテキストが最強?
 文書フォーマットには、Wordや一太郎などプロプライエタリなものから、HTMLやODFなどオープンなものまで、さまざまな種類があります。開発用の文書は、後日のメンテナンスや普遍性を確保するためにも、「README」のようなものも含めオープンなフォーマットを選択したほうが無難なことは敢えて述べるまでもないでしょう。
 なかでも最強は「プレインテキスト」です。表組や図版などの要素を含めることはできませんが、文字コードの相違さえ注意すれば、万人が利用できる陳腐化の危険性がほとんどない文書となります。前述の「README」も、プレインテキストが相場ですよね?
 以前紹介したTeX / pLaTeX2eも、ファイルフォーマットとしてはプレインテキストに分類されます。しかし、内容はソースコードに近く、決められた文法・書式に従い書き進めなければなりません。美麗な文書を作成できますが、その手間も相当なものです。
 今回紹介する「plain2」(プレインツー)は、プレインテキストを解析してTeX / pLaTeX2eファイルに変換するというツールです。近年ではUNIXユーザの間でさえ話題になることも少なく、過去のものとして忘却された方も多いのではないかと思います。しかし、プレインテキストからTeX文書を生成する機能を持つツールは他に例がなく、いまだ高い利用価値を有しています。

・plain2をインストール
 内田昭宏さんが開発したplain2は、いわゆるオープンソースソフトウェアです。しかし、近年ではメンテナンスを行う方が不在なようで、plain2を収録するLinuxディストリビュータも減っています(未確認ですが、現在ではほとんど収録されていないはずです)。Mac OS Xで利用しているという話を耳にしたこともないので、Mac OS Xユーザを対象としたインストール手順の紹介は本邦初公開かもしれません。
 具体的な手順は、以下のとおりです。ターミナルを起動し、コマンドラインをコピー&ペーストし実行するだけですが、終盤「make」を実行する前、リスト1とリスト2のパッチを当ててください(当てなければMac OS Xではコンパイルが通りません)。また、pLaTeX2eの処理系が必要ですので、本連載のバックナンバーを参照するなどして、利用している環境に応じたパッケージをインストールしておきましょう。

- - - - -
$ curl -O http://http.debian.or.jp/debian-jp/pool/main/p/plain2/plain2_2.54p1.orig.tar.gz
$ curl -O http://http.debian.or.jp/debian-jp/pool/main/p/plain2/plain2_2.54p1-4.2.diff.gz
$ tar xzf plain2_2.54p1.orig.tar.gz
$ cd plain2-2.54p1.orig
$ gzcat ../plain2_2.54p1-4.2.diff.gz | patch -p1
$ cd src
(リスト1とリスト2のパッチを当てる)
$ make
$ sudo cp plain2 /usr/local/bin/
- - - - -

- - - - - - -
リスト1:src/macro.c

--- macro.orig  2008-06-19 08:27:48.000000000 +0900
+++ macro.c 2008-06-19 08:53:50.000000000 +0900
@@ -8,7 +8,7 @@

#include 
#include 
-#include 
+#include 
#include "plain2.h"
#include "macro.h"

@@ -189,9 +189,7 @@
       buf++;
   }
}
-putMacro(macroNum, va_alist)
-int    macroNum;
-va_dcl
+putMacro(int macroNum, ...)
{
   va_list ap;
   union   macroArg {
@@ -226,7 +224,7 @@
       }
       mip = mip->cmac_next;
   }
-   va_start(ap);
+   va_start(ap, macroNum);
   for (i = 1; i <= maxarg; i++) {
       switch(argtype[i]) {
           case ATYPE_VOID:
- - - - - - -

- - - - - - -
リスト2:src/plain2.h

--- plain2.h.orig   2008-06-19 08:47:49.000000000 +0900
+++ plain2.h    2008-06-19 08:48:15.000000000 +0900
@@ -342,7 +342,7 @@

extern char    *malloc();

-#define    INTERNAL_CODE   CODE_EUC
+#define    INTERNAL_CODE   CODE_SJIS

#ifdef BSD
#include 
- - - - - - -


・まずはかんたんなテストから
 plain2は、プレインテキストを日本語LaTeX(またはtroff形式)に変換する機能を持ちます。たとえば、カレントディレクトリに「plain.txt」というSJISエンコードのプレインテキストがあるとき、以下のとおりコマンドを実行すれば、「output.tex」という日本語LaTeXファイルが得られます。これをplatexコマンドでタイプセットし、生成されたDVIファイルをdvipdfmxコマンドでPDFに変換すれば、TeXで整形された文書の完成です。

- - - -
$ plain2 -tex plain.txt > output.tex
- - - -


 プレインテキストの内容は、基本的には平文そのままで構いませんが、いくつかの約束事があります。特に重要なポイントとしては、以下のものが挙げられます。

1. 空白行で段落行の区切りを示す。空白行を設けない場合、行詰めのうえ出力される。
2. 行頭に「・」(中黒)や「-」(半角ダッシュ)を置くと、その行は項目型リストとして出力される。
3. 行頭にアルファベット1字、またはローマ数字を置くと、その行は数値型リストして出力される。半角ドットまたは両側 / 右側にカッコが必要。
4. 「-」や「+」、「=」などの記号で作成した表は、LaTeXのtabular環境として整形される。

 ごくかんたんな例ですが、以下のリストを適当なファイル名(文字コードはSJIS)で保存し、plain2とplatex、dvipdfmxで処理してください。ただのプレインテキストではない、整形されたPDFを得られるはずです。次回紹介予定の表組みテクニックを取り入れれば、さらに美麗な文書になるのではと思います。

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吾輩(わがはい)は猫である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当(けんとう)がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした
所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。

- 夏目漱石
- 吾輩は猫である

a. 「ホトトギス」1905(明治38)年1月〜8月
b. データは青空文庫より
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$ plain2 -tex test.txt > output.tex
$ platex output.tex
$ dvipdfmx output.dvi
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◇MOSAからのお知らせと編集後記は割愛します◇

 

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