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WWDC 2008 学生会員初参加レポート(その1)

WWDC 2008 学生会員初参加レポート
                      慶應義塾大学大学院 理工学研究科 清水翔(MOSA学生会員)

初めまして、慶應義塾大学大学院理工学研究科の清水翔と申します。

今回、アップルのスカラシップおよびMOSAからの援助を受けて初めてWWDCに参加することが出来ました。私は、大学での都合もあって会期前日にサンフランシスコに入り、会期終了日の翌日に日本に帰国したため、観光の要素はあまり入れられなかったのですが、それでもアップルジャパン主催の学生向けサンフランシスコ観光やスタンフォード大学見学、カンパニーストア訪問などがあったため、十分に観光要素も楽しむことが出来ました。

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(会場であるモスコーンセンターの前日の様子)

今年のWWDCはiPhone SDKが発表されてからの初めてのWWDCであり、iPhoneへの注目度の高さからWWDC始まって以来初のチケット売り切れが起こるほどの人(キーノートでは5200人と紹介されていた)が参加したためか、何をするにも会場が混んでいたような気がします。

WWDCで一番注目されるのは当然スティーブ・ジョブズによる基調講演で、自分としてもプレゼンテーションの神とも言われるスティーブ・ジョブズを生で見てみたいという気持ちから他の日本人の学生と一緒に気合いを入れて5時から列に並んだ結果、運の良さもあって前から15列目ぐらいという相当好位置で見ることが出来ました。近くに並んでいた日本人の方が、列が進むたびに何度もシャッフル(=みんながなだれ込んで列がぐちゃぐちゃになる現象)があるから気を抜くといつの間にかに後ろになるから気をつけた方がいいよというアドバイスをくれたのですが、これが非常に役に立ちました。昨年、一昨年はスカラシップで参加している学生参加者は、別部屋でのモニター鑑賞のみであったと言うことなので、このこと考えても今年あの位置で基調講演を聴くことが出来たのはラッキーだったと思います。

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(基調講演を待つ列)

基調講演ですが、まず、スティーブ・ジョブズがすごい痩せているのに驚きました。メディアで健康悪化説が報じられるのも無理はないかという感じで、ジョブズの健康状態が非常に気になりました。

基調講演の内容自体は、多数のメディアで報じられているようにiPhoneのことで時間のほぼ全てが使われました。日本での発売が約1ヶ月後の7/11という短期間での発売、さらにその価格が(後でインセンティブモデルが適用されると言うことが分かりましたが)199ドル以下というのは国内の他の携帯電話メーカーが対抗策を打ち出せるのか不安になるほどの衝撃的な値段設定だと思いました。

デモでは、ゲームの紹介が何個かありましたが、それを見るとゲームのプラットフォームとしても相当なポテンシャルを持っていることが明らかで、ゲーム自体も9.9ドルとかで販売されると言うことなので、開発の間口の広さ(無料でのSDK配布)とApp Storeによる一元的な配布、課金スキームの整備を考えるとNintendo DSやPSPの地位も脅かされそうだなという気がしました。

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(座った位置からの写真(左)と会場一番後ろからの写真(右))

次期Mac OS Xの発表は、Snow Leopardという名前だけで内容は基調講演後、昼を挟んでのセッションにて詳しい紹介があったのですが、基調講演での扱いの小ささを見るとアップルとしても今回はiPhoneを中心に据えている意識があったのだと思います。ただ、Snow Leopardの中身自体は非常に興味深いものがあり、今後のコンピューティングの方向性を見据えたものになっていて、アップルのInsightが伺える内容になっていました。コンシューマ向けの新機能は搭載されず(正確に言うとMicrosoft Exchangeのサポート以外は)、安定性と最適化に注力するということですが、一方開発者にとっては早く手をつけておくと良いのかなというのが印象です。一言で言うと、玄人受けするOSなのではないかということですが、Leopard以上に軽くなり、安定したOSになることに期待したいところです。

基調講演以外のセッションについてはNDA扱いになり、メディアでの扱いもないためこれまでどのような内容が行われてきたのか謎なため興味がありました。基調講演は、ジョブズのプレゼンテーションの魔力に取り込まれ、その雰囲気を堪能したいという魅力がありますが、その他のテクニカルなセッションは、Mac OS Xであったり、今年の場合はiPhoneであったりといった技術的な内容にフォーカスしている分、自分の興味のある技術を生で知ることが出来る、新OSで搭載される新技術やAPIをいち早く知ることが出来るという面でまた別の魅力があるように感じました。

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(初日のランチボックス(左)と基調講演終了後のキーノートチーム(右))

基調講演以外のセッションは、初日の基調講演が終わった後、昼食をはさんで始まりますが、会期の序盤はMac OS Xのアーキテクチャであったり、iPhoneでの開発の基礎的な事項が中心のセッション構成で、会期が進むにつれて徐々に内容が核技術に特化した専門的な内容になっていくという感じでした。何度も言うように今回が初めてのWWDCだったので、今までどんな感じだったのか分からないので何ともいえませんが、今年はiPhone SDKによって今までMacプラットフォームになじみのなかった新規の開発者の方が多数参加したことを考慮してか、CocoaやMac OS Xの基礎的なセッションの数が多く、以前からの開発者の方にとってはセッション内容的にはもの足りないものがあったかも知れません。これは、次期OSであるSnow Leopardは新機能がないという面もあるからだと思います。

セッションを聞いていて思うことは、昨年の学生レポートにもありますが、アップルのエンジニアは本当にプレゼンテーション能力が高く、感心させられます。アップルジャパンの金子さんの話によると、社内では何度も練習とダメ出しが行われるとのことですが、それにしてもなかなかあのレベルに達するのは難しいなと、自分のこれまでの学会発表などを振り返ると思います。スライド自体の完成度も高く、どうやってあのスライドを作っているのか知りたくなるくらいで、英語力の高くない私でも十分に発表内容を理解することが出来ました。一方で、Q&Aになると質問側も回答側もすごい早さでしゃべるのでほとんど理解できなかったのは自分の今後の課題だなと思いました。

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(凄まじく大きいアップルロゴを掲げたモスコーンセンター(左)とサン・フランシスコ市内のアップルストア内(右))

参加したセッションとしては、iPhone関係がやっぱり多かったのですが、それ以外にもグラフィックや開発ツールの話、あと当然Snow Leopardの新しい話などを聞きました。会場の雰囲気ですが、セッション内容がNDAになっているせいなのか思ったよりもノートやらラップトップでメモを取っている人は少ない印象です。かくいう自分も、メモを取ると話が耳に入らなくなるので箇条書き程度にしかメモを取っていなかったことをこのレポートを書きつつ感じています。

ここまで、セッションについて書いてきましたが、WWDCのもう一つの魅力はアップルのエンジニアが大量にスタンバイして質問を受け付けてくれるラボの存在です。下手をするとセッションよりも価値があると感じている人もいるのではないかと思います。ラボの重要性は行ってみて初めて分かりました。今回、私は特にコードを持ち込んだりしていなかったので、活用という感じではなかったですが、Snow Leopardの機能で疑問に感じた点やiPhoneのロケーションの機能などについて質問しました。

アップルのエンジニアは非常に親切で、こちらの英語がたどたどしいにも関わらず丁寧に質問を聞いてくれ、担当でないため分からない質問に対しては、担当のエンジニアをその場で教えてくれたり、近くにいる場合にはその場で呼んでくれました。担当のエンジニアは質問に的確に答えてくれ、さらに、「何でおまえはこういう機能が欲しいのか?」とか「何でそういうことが必要なのか?」とか質問を逆にされ、軽く議論になったりしました。英語でこれに答えるのはなかなか説明できず、伝わったのかは微妙なところでしたが。ただ、単純に質問しただけなのにそこから議論に結びつくという感じなのは日本にはない傾向かなと感じました。

Worldwide Developers Conferenceという名前の通り、参加者は世界各地から来ており、基調講演を待つ時の周囲には、カナダ、シンガボール、オーストラリア、中国などなど本当に世界各地からの参加者が集まっているのだなと実感しました。5200人の参加者中、日本人の参加者は300人ほどだったそうなので割合的には日本人の参加者も多い気がしますが、会場ではその割合ほど見かけなかったような気がしました。

欧米系の外国人は、(基調講演を待っている最中は特に)その場で知り合ったような人と延々としゃべっているように見えたのが印象的です。自分も基調講演を待つときに隣にいたカナダ人と話して連絡先を交換したりしました。彼も、初めてのWWDC参加で勝手が分からず基調講演の列に相当早くから並んでいて、サイドビジネスを始めるに当たって参加したというようなことを言ってました。また、外国人の方は、朝食時に隣の人とよく世間話をしていますが、それに習って私も二日目の朝食の時に隣の人に話しかけたら、ベルギーの学生でセンサーネットワークの研究をしていて、その研究でiPhoneを使ってプロトタイプのプラットフォームを作ると言って、研究の企画書みたいなものを見せてくれたりしました。

会期の最終日には、アップルジャパン主催の学生向けツアーでスタンフォード大学の見学とアップル本社のカンパニーストアに行きました。車でないと行きにくい地域だったので、ツアーを組んでいただけたのは非常にありがたかったです。私の指導教授が、スタンフォード大学とかを見ると、かなわない気分になるといっていましたが、実際にスタンフォード大学を見学をするとあまりの規模の大きさに驚くばかりでした。広々としたキャンパスで、緑があり、あのような環境で勉強や研究を行える人は非常に恵まれているなと感じました。ただ、学費は5万ドルと日本の大学と比較して非常に高額ですが。研究棟なども個人的には見学してみたかったのですが、時間の都合上、見学はありませんでしたが海外の大学の環境をみられたのはよい経験でした。

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(スタンフォード大学構内)

スタンフォード大学内を案内してくれたのは、学内でMacなどの相談を聞く役目のCampus Repの学生で、大学生協に相当するStanford Bookstoreに連れて行ってくれました。大学生協と同じくMacなども販売も行っていたのですが、驚いたのはその価格です。アメリカに行く前に、アメリカのアップルストアでの学割価格は日本のそれと比較して相当割引率が高いと言うことを聞いていましたが、スタンフォード内の販売価格は、通常の学割か価格からさらにAdditionalな割引がされているのか相当安かったです。それは、ソフトについてもいえ、iLife, iWorkなどのコンシューマアプリケーションだけでなく、Final Cut StudioやLogic Studio, Shake, Apertureと行ったプロアプリケーションも日本の学割価格の約半額で販売されていました。私は、何を血迷ったのか使うか分からないAperture(69ドル)を買ってしまいました。

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(激安のFinal Cut Studio(左)と衝動買いした日本ではあまり見かけないプレゼン用リモコン(右))

スタンフォード大学内で昼食を取った後、アップル本社のカンパニーストアに向かい、そこでしか買うことが出来ないであろうお土産を買って、非常に満足でした。アップル本社は、周りが非常にきれいで、実際はセキュリティーが相当厳しいらしいのですが、中庭も開放感があって、非常によい職場環境だと思いました。

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(アップル本社)

WWDCは非常にエキサイティングで、非常に刺激を受けました。今年参加できたことは、非常に幸運だと思います。参加に当たり、お世話になったアップルの関係者の方、MOSAの関係者の方、その他この機会を作っていただいた全ての関係者の方に深く感謝したいと思います。是非とも、来年は沢山のコードを持ってより有意義に参加したいと思います。また、興味のある方、特に学生の方は是非とも一度は参加してみてほしいと思います。

執筆者プロフィール

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 博士課程2年 清水 翔
現在、慶應義塾大学大学院にて次世代インターネットの基幹網の研究をしています。このレポートに載せられなかった雑多なWWDCの感想などをブログ(http://d.hatena.ne.jp/oshothebig/)で随時公開しています。

学生会員によるWWDC初体験記「WWDC 2008 学生会員参加レポート(その2)」はこちら